このバイロイトの「第9」では、音楽の表情がとても敏感に捉えられている。
個々の表情があまりにも切実なので、時に感情移入と誤解されるが、よく聴くともともと音楽に備わっていた表情を鋭敏に感じて蘇らせていることがわかる。
しかも切実に表現された部分がバラバラになっていない。
それどころか一つのものが大きな流れにつながっている。
この手法の強みは、他のベートーヴェンの録音、シューベルトの第9交響曲やシューマンの第4交響曲などでも最大限に発揮されている。
フィナーレで歓喜の主題が低弦から歌い出される直前や、「神の前に!」で前半部を締めくくる際の、極限的なフェルマータは、単なる演奏効果を狙ったものではない、心からの祈りと聴くべきであろう。
第3楽章も絶品で、これはもう神技といって差し支えない。