バイロイトの「第9」の緩徐楽章 /フルトヴェングラー鑑賞室

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バイロイトの「第9」の緩徐楽章

バイロイトの「第9」の緩徐楽章では、手探りで進むような終結の部分こそいつものフルトヴェングラー調でだが、あとはじっくりと遅いテンポを保ちつつ、特別の細工もなく、音楽自体の深い美しさを最大限に発揮し尽くしている。

この演奏を前にしては、さすがのブルーノ・ワルターの表現さえ浅く感じられるほどだ。

かつて朝比奈隆がN響定期演奏会のパンフレットの中で、この楽章は少しでも遅いテンポで指揮しなければ意味がない、と語っているが、その考えの適否はさておき、フルトヴェングラーは他のどの指揮者よりも遅いテンポを採る。

普通ならこんなテンポで指揮すればだれてどうしようもないはずだ。もちろん朝比奈自身の演奏ももっと速い。ワルターなどは、第1主題が終わった後のパッセージで、だれないように次の第2主題のテンポを先取りしている。

これはつまり、そこで第2テーマのテンポにしてしまった方がオーケストラが弾きやすいのである。ワルターにはこういう職人的なところがあり、フィナーレでも低弦のレシタティーヴォにせよ、二重フーガにせよ、弦が弾きやすいように遅いテンポを採っている。自分の表現よりもオーケストラのことを考えた親切心が先に立つ。

ところが、フルトヴェングラーはまず自分の表現が先で、前述の第2主題の前では大きくテンポを落して、いやがうえにも次のテーマへの期待の心を抱かせるのである。

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