フルトヴェングラーに関する著作で、私が最も興味深かったのはクルト・リースの『フルトヴェングラー』(クルト・リース著『フルトヴェングラー』八木浩訳、芦津丈夫訳、白水社)である。
この本は、戦後四ヶ国連合軍がドイツを占領して、戦争裁判や公職追放といった一連の仕事を始めた時、フルトヴェングラーがナチに協力したというので、長い間、指揮活動を禁止されていた。
そこで、リースは、フルトヴェングラーの戦前、戦中の活動を追いながら、その無罪を明らかにしようとして書いたものである。
周知のように、フルトヴェングラーは一生ドイツを離れなかった。当然、1933年以来のナチ政権が成立してから、第二次世界大戦が終わる1945年までのほとんど全期間を通じて、ベルリン・フィルを中心に、ヨーロッパで華々しく活躍していた。
そうして、その間、ナチからの政治的宣伝目的に使われることを固く拒否したり、ユダヤ人排撃には手強く抵抗したりしながらも、戦争の終わり近くまでドイツを離れなかった。
これが同業者など多くの人々の憤慨を買い、戦後連合軍から調査されるに至ったわけである。