評価すべき点/フルトヴェングラー鑑賞室

フルトヴェングラー鑑賞室 TOPフルトヴェングラーの場合→評価すべき点

評価すべき点

フルトヴェングラーの教養形成期は、ちょうど第二のロマン主義運動ともいうべき表現主義運動の時代であったが、彼にはそれから影響を受けた形跡はみられない。

むしろ、その後に来る、ゆりもどしとしての新古典主義運動としてのノイエ・ザッハリヒカイトの方がフルトヴェングラーに大きく影を落としている。

そしてそうした流派の影響をあれこれ詮索する以上に、私たちはフルトヴェングラーの音楽の論理の中にある感性的、情念的なもの、もっと正確にいうならば、「生の盲目的意志の力動」とも呼ぶべきもの(しばしばドイツ語で「デモーニッシュ」と呼ばれるもの)の噴出と、それを統御し、形象化し、昇華する理性的なものの働きの間の絶妙なバランスに着目すべきである。

生きた形式の有機的全体性がフレージングやテンポのふくらみを確固として支えていることから生じる彼の演奏の安定感こそ、私たちがフルトヴェングラーの表現において、最も評価するべきものだろう。

フルトヴェングラーの音楽の論理は、そしてそれを支えている精神の内面性は、それ自体としては極めて純粋な、そして質の高いものであったといってよい。

ただここで一点付け加えておかねばならないのは、そうした音楽の論理の水準の高さが、全体として19世紀以来の教養市民文化の文脈の中に潜む、反啓蒙的対抗性の位置づけられたとき、別の意味を帯びてしまうことである。

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