フルトヴェングラーの生きていた時代は、吉田秀和氏の表現を借りれば、ベートーヴェンが太陽のような中心的位置を占め、その周りをシューベルト、シューマン、ワーグナー、ブルックナー、ブラームスといった天才たちが、惑星のごとく回転しながら輝かしい音楽の体系が形成がされるといった認識が正統とされていた。
しかし、前世紀後半から、俗に「マーラー・ブーム」といわれたように、かつてのベートーヴェンの「第5」シンフォニーが、コンサート会場においてもレコードにおいても、高い人気を誇っていた時代は過ぎ去った。
「苦悩から歓喜へ」もうそういう風に素直に感動しきれなくなったのが現代人なのかもしれない。筋書き通りのドラマは現実感を覚えない人が増えているのだろうか。
とはいえまだ新たな時代の好尚が造られているとは言いがたい。