幸いなことにフルトヴェングラー熱は日本だけの現象ではないようだ。
他界した指揮者に対して急速に興味を失うヨーロッパでさえフルトヴェングラーだけは別格で、実況録音、放送録音などが相次いで発掘され、映画フィルムも他の指揮者より多く残されている。
音楽ファンはいよいよ目覚めつつあるのだ。機械的で交通整理のような指揮者たちに飽き始めたのである。
特にモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスなどのドイツ=オーストリア音楽の主流に対して、もっと豊穣な、もっと深い、もっとこくのある、身も心も熱くなるような演奏を期待しているのだ。
だからこそ死後半世紀も経ったフルトヴェングラーの音楽を必死で追い求めるのである。
実際に舞台姿を見たこともない、モノーラル録音でしか知らない彼の音楽を熱望するのである。