フルトヴェングラーは生まれながらの舞台人である。
熱狂的に彼を迎える聴衆があってはじめて彼の即興精神は燃え上がり、演奏に火がつき、ドラマティックなテンポの動きや、踏み外した楽器のバランスによるデフォルメが現れる。
しかし重要なのは、たとえ即興精神に火がつかず、冷静に演奏しても、フルトヴェングラーの音楽はやはり素晴らしかった、という事実であった。
聴衆のいないレコード録音でも彼は常に意味深い響きを創造し、余裕を保ちつつ、精神の嵐と緊迫感を表出し得た。
そういうしっかりとした土台があるからこそ、どんなに荒れ狂っても元の音楽性が微動だにしなかったのだ。
すなわちフルトヴェングラーは純粋な一人の音楽家としても最高なのである。