ある奏者の証言/フルトヴェングラー鑑賞室

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ある奏者の証言

ベルリン・フィルのティンパニ奏者であった、ヴェルナー・テーリヒェンの著書『フルトヴェングラーかカラヤンか』には、著者がフルトヴェングラーの指揮にじかに接した生々しい内容が著されている。

テーリヒェンは、1948年にベルリン・フィルのティンパニ奏者となり、以後35年の長きにわたってフルトヴェングラー、カラヤンの二大指揮者の下で、演奏活動を続けた人である。

彼はフルトヴェングラーの偉大さを存分に描き出している半面、彼の人間的な弱さにも大幅に筆を割いており、真実性に富んだ伝記ないし指揮論になっているところが、より興味深い。

彼がベルリン・フィルに入団した当時、フルトヴェングラーの総休止におびただしい音楽を知覚し、体中が汗ばみ、息がつけなくなった体験など、まことにさもありなんと思わせる。

またある時、客演指揮者のリハーサル中、ティンパニの出番のない楽章なので、テーリヒェンはスコアを広げて音楽に熱中していた。やがて、突如としてオーケストラの音色が一変、まるで本番のような充実感と温かさが現出したので、驚いて目を上げると、ホールの端の扉のところにフルトヴェングラーが立っていた。

彼がそこに立っているだけで、ベルリン・フィルの音色が変わったのである。

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