フルトヴェングラーは「私のベートーヴェンは特別なのだよ。」と常々語っていたというから、自分でも余程自信があったに相違ない。
特にベートーヴェンの「第7」が終わった後に聴衆の騒ぎは、もう熱狂とか興奮という言葉では表現できないものであったそうだが、録音を通じて聴いてもさもありなんと思わせる。
それこそが生きた演奏といわなければならない。
ベートーヴェンの九つの交響曲の中で、フルトヴェングラーの偉大さがはっきりと表れているのは奇数番号のように思われる。
つまり、「エロイカ(英雄)」「第5(運命)」「第7」「第9(合唱)」の四曲である。
これらの曲は、いずれもベートーヴェンが不幸な運命を乗り越え、深くて暗い地底から這い上がり、光明を得ようとして努力しつつある時の作品である。
この巨匠の凄さは、そうしたベートーヴェンの「苦悩を通じての歓喜」の精神をしっかりとつかみ、それを劇的に表現していることだ。